福岡高等裁判所 昭和40年(う)406号 判決 1966年3月04日
被告人 李錫奎
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人青山政推提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
所論は、原判決は、被告人が、ハシエー・チヨコレート・コーポレーシヨンおよびシー・ジエイ・ヴアン・ホーテン・エンド・ツーン・エヌ・ヴイ各製造の業務用大袋入りココアを小分けして、被告人が作らせた前者の登録商標「HERSHEY′S」、後者の登録商標「VANHOUTEN」と同一の標章を付したポリエチレン袋またはラベルを使用して包装し直し、それぞれの缶入りまたは袋入りココアを製造し、その大部分を売り渡した事実を認定し、これに商標法第七八条を適用し、被告人の右行為は商標権を侵害したものであるとしている。しかしながら、被告人は右各商標権者の製造した商品そのものすなわち真正商品に右各登録商標と同一の標章を付したものであるから、各商標権者の商品の社会的価値が害されることはなく、むしろ購入について需要者に利益を与えるものであつて、被告人の右行為は商標権を侵害したものとはいえず、原判決には法令適用の誤がある、というのである。
そこで、検討するに、本件のココアのような商品は包装し直すことによつて品質が変化することがあり、またその際他の物を混入することも容易であるから、商標権者の製造した真正商品を小分けして、その登録商標と同一の標章を付したものを使用して包装し直すことは、商標権者の信用を害し、ひいては需要者の利益を害することになるので、商標権を侵害したものといわなければならない。したがつて、所論の被告人の行為が商標権を侵害したものとした原判決には法令適用の誤はなく、論旨は理由がない。
そこで、刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 塚本冨士男 矢頭直哉 中島武雄)